笑み社がブログを立ち上げたようです

2ちゃんねるのVIPでSSコテとして活動中の笑み社 ◆myeDGGRPNQのブログです。基本的に作品保管庫として機能していますが一日一回日記を書きます。

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唯「中学生のころの話しようよ!」梓「じゃあ、次は私ですね」

1 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 16:00:18.63 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 ――私にとって 環境とは 才能だった

 生まれ持った環境

 生まれ育った状況

 それが 私にとっては才能そのものだった

 周りには 楽器

 音楽が溢れている

 でも そこにきっと意味はなく――

 結局 私という存在は 本当を知ることができなかったのだ

 だって 私は結果に溺れてしまったのだから

2 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 16:02:22.64 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 外は、夕日のオレンジ色に包まれていた。
 冬という季節は、夏に比べて日が落ちるのが早い。それ故に、4時半という現在の
時間でも日は傾き、黄金色の光はオレンジ色の光に変わっている。
 紅茶の水面に、オレンジ色の光が差し込む。
 練習を全くしていないが、これはこれでいいものなのだと思う。
 紬たちがいなくなってしまったら、このティータイムも終わってしまうのだろうか。

「あずにゃんあずにゃん。はい」

 唯が私にケーキを食べさせようとする。
 柔らかい、というよりも締まりのないその顔は、どうしてか私のしてほしいことを
的確にしてくれる。
 練習以外のことは、彼女は私にとってベストパートナーなのだろう。
 それはともかく、唯が持つフォークの先端にはケーキがひとかけら。きっと、これ
を私にくれるのだろう。

「あー! 梓ばかりずるいぞ! 私にも私にも!」

「り、律。私があーんしてやっても――」

「そうよ、りっちゃん! 私は見てるから、澪ちゃんにあーんしてもらって」

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 16:02:50.59 ID:IGnvPWY50
新作

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 16:03:13.90 ID:N3s7TyVo0
>>185
それはストーンフリーだからwww

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 16:04:17.73 ID:Gs2YbNe8P
>>250マングースがキュウリ食うわけねえだろ

6 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 16:06:12.03 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 ……騒がしい部活だ。
 軽音部だというのに、楽器の音よりも人の声のほうがよく聞こえる。
 それが桜高の軽音部なのだ。それを、嫌った自分がいたことは、今となってはどうで
もいい。
 どうでもいい。
 過去の、自分なんて。
 だったら、私もこの人たちに話してもいいと思う。
 私の、昔の話を。
 三人の先輩は、隠さずに話してくれたのだから。

「あの、律先輩」

「ん? なんだ?」

「あの、私の昔話とか、聞きたかったりします?」

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 16:09:48.60 ID:DyqrZUaZ0
途中まで読んだ気がするから新しいのが出来たら呼んでね

8 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 16:10:35.13 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 どうして律に尋ねたのか。
 それはわからない。
 ただ、なんとなくこの人に聞けば気持ちのいい答えが返ってくると思ったからだ。
 三日前に聞いた、紬の過去。
 それから始まって、この部活は自らの昔話を順番にしていっている。不思議なもの
だ。その人の過去を聞いて、ようやく私はその人を知ることになったのだから。

「……梓が話したいなら、いいよ。聞くから」

 珍しい。
 この人が、こんな曖昧な返答をするなんて。
 ――まあ、それでもいい。

「あずにゃん……」

「いいんです。この夕日を見てると、そんな気持ちになるんですよ」

 昔に思いをはせる。
 そんな、ノスタルジィに浸りたいのだ。

9 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 16:15:34.37 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 ――中野梓は、言ってしまえば芸能人の娘である。
 ジャズミュージシャンの両親を持ち、家には楽器や音楽が常にあふれていた。生まれた
時からこうだったから、決して不思議には思わなかった。両親がギターを弾いているのを
見て、素直にかっこいいと思ったし、尊敬もしている。

 私が幼いころ、そんな両親は言った。

「なあ、梓。音楽って、どんな字を書くと思う?」

「――?」

 父の言葉の意味を知るのには、私はあまりにも幼すぎた。
 当然だ。
 私は、5歳だったのだ。
 字を書くことも、読むこともできない5歳時には、この質問は複雑すぎる。

「梓には少し早かったかな。でもな、梓――」

 父が新聞の折り込みチラシの裏に、ボールペンで字を書く。

 音楽

 その、たった二文字だけを書いて、私の目を見た。

10 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 16:22:09.37 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「これ、なに?」

「これが、音楽っていう字だよ。音を楽しむって書くんだ。わかるかい?」

「うーん……」

「ハハ。まだわからないよな。
 でもな、梓。音楽は、みんなが楽しめるようになって初めて音楽っていうんだ。それを、
決して忘れるんじゃないぞ」

 いつもはギターが置かれる膝に、父は私を乗せる。
 にこりと笑って、私の頭を少し乱暴になでる。
 父譲りの紺色の髪は、私にとって誇りだ。
 その髪を撫でられているだけで、私はこの人に愛されているんだと感じた。

 ――父の言ったことの意味がわからなくても、それでもいいと思えるくらいに。

 私には、父や母と同じように、楽器を演奏する才能があるんだと思えるくらいに。

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 16:25:48.40 ID:wLew4fLVO
支援

12 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 16:29:52.93 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 ――幼稚園での私は、誰よりも普通な子供だった。
 それも当然だ。
 別に、両親がミュージシャンだからといって、その子供まで特別かというと、決してそうで
はない。
 人にはそれぞれ、ペースというものがある。それは在り方にも当てはまる。
 父と母が、有名なのは私も知っている。
 だからといって、私が同じような人生を歩むことはない。
 ミュージシャンの子供でも、当たり前の夢があるのだから。

「あずさちゃんは、大きくなったらなにになりたいの?」

 友達から、こんなことを訊かれる。
 周りの大人が、私の回答に耳を傾ける。
 私の回答に、期待する。 

「えとね。私は――お嫁さんになりたいな」

 白いドレス。
 白いベール。
 白い教会で。

 私は愛する人と結ばれたいと。
 そんな、普通の子供と同じ夢を持っていた。

13 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 16:35:12.62 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 ……そう。
 私は、普通の女の子なのだ。
 両親が何者でも関係ない。
 私という存在が変わらぬ限り、私は中野梓なのだ。
 故に、誰かに将来を決められたりなんてしない。
 自身の考えと、夢をしっかりと持って生きているのだから。

「梓ちゃんは、パパやママみたいになるの?」

 幼稚園の先生が、私に向かってそんなことを言う。
 私は――その言葉が大嫌いだった。

 ――パパやママみたいになる。

 馬鹿らしい。
 それでは、私個人の夢はどうなる?
 周りの勝手な展望に、私の未来が決められるなんて、そんな馬鹿なことがあっていいもの
か。私は私の夢のために、私は私の大切な人のために生きていく。

 ――たとえ家に楽器がこれ見よがしに置いてあっても、私は私なのだから。

14 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 16:41:16.27 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 家に帰っても、誰もいない。
 送迎バスで帰ってきて、玄関のドアを開けても、ただいまと大きな声で言っても、なにも返って
などこない。
 両親は忙しいのだ。
 そう自分に言い聞かせて、ソファーに座る。

 ……うす暗い部屋。
 呆として過ごすには、ちょうどいいくらいの暗さ。
 外からは子供の声が聞こえる。
 大きな声ではしゃいでいる、子供の声。

「ちょ、りっちゃん、早すぎるよぉ」

「うぇええええええええええええええええい!!!!!!」

「りっちゃああああああああああん!!!!」

 耳障りだ。
 リモコンを持って、テレビを点ける。
 液晶テレビには、笑顔の青年が子どもたちと踊っている。
 ……心が、苦しい。

 両親が返ってくるまでの間、私は毎日毎日、独りでソファーに座っていた。

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 16:51:43.28 ID:zi2hkY8zO
支援してやんよ

16 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 17:04:14.72 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 小さなギター。
 でも、それは父や母が使っているのと同じ形だ。
 ピカピカの、新しい――

「――梓、弾いてみな」

 ストラップを掛けて、構えてみる。
 父と同じように。
 母と同じように。

 ピックを持って、弦に引っかける。

「――!」

「あ」

 指から、赤いもの。

 血。

 私のギター初体験は、弦に指を引っかけて血を出すという苦い思い出だった。

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 17:06:17.59 ID:JSCULQ0UO
えみやしろはやくしろ

18 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 17:10:46.26 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 それ以来、しばらく私はギターを弾かなくなった。
 初体験にして、血を出したことがトラウマとして残っていたからだろう。

「ねえ、あずさちゃんってかわいいよね」

「そう? ありがとう」

 幼稚園の砂場で、いつものようにお城を作っている時だった。 
 突拍子もなく、友達のマキちゃんがそんなことを言ってきた。
 意図がわからない。
 ただ、褒められたのだから素直に感謝をする。
 マキちゃんは私よりもほんの少しだけ背が高い。
 というより、私は周りの子に比べて特別背が低い子だったので、マキちゃんだけが背が高い
と感じたわけではない。

「すべすべー」

 マキちゃんが、いきなり私の頬をなでる。
 嫌とは思わない。
 ただ、女の子同士でこういうことをするのはどうなのかなって思った。

19 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 17:15:25.41 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「カワイイー!!」

「あ、ありがと」

「カワイイよ。ママもパパも言ってたもん」

 彼女は、考えたことを全て行動に移す。
 神経や思考が、考えを常識の範囲に収める前に動き出すから、彼女は何度も怪我をしてい
る。それでも、大けがが一度もないのが彼女のすごいところだ。否、大けがをすれば無茶もし
なくなるのに、それがない。

「だからね。ママが昨日私に言ったの――」

「……なんて?」

 ――私は、聞き返さなきゃよかったのかもしれない。

「中野の子供とは、仲良くしなさいって」

 仮初の笑顔と、本物の笑顔がわからなくなってしまうから。

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 17:19:03.11 ID:xPy2uJoV0
長瀬「中野」

21 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 17:24:05.92 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 ――それから小学校に上がるまで、私はずっと周りの人たちの笑顔がウソに見えていた。

 私の家は、決して裕福ではない。
 たまたまミュージシャンの両親がいるだけで、それ以外は普通の家庭と全く同じだ。そ
れなのに、周りはそうはいかない。
 一度テレビに出たり、CDが売れれば、たちまち見る目というものは変化する。
 私のことを深く知らない人たちにとって、私は裕福な家の子供でしかないのだ。

 故に取り入ろうとする。
 中野の家と仲良くすれば、なにかおこぼれがもらえるかもしれない、と。

 ――ああ。
 馬鹿らしい。
 そんなこと、あり得ないというのに。
 私を、私の家を買い被り過ぎだ。

 小学校に上がってからも、私は人の心理を計れずに生きていた。


22 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 17:30:40.62 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 ――誰かと話す時、私は目を見ることができなかった。

 否、顔を見ることができなかったのだ。
 私は稀有の目で見られていたから。
 それをわかっていたからだ。
 中野梓の親は、芸能人だ。
 その前提で、人は私を見る。
 
 授業参観でも、
 運動会でも、
 合唱コンクールでも、

 なにもかも。

 私は中野梓で、中野の娘なのだ。
 だから、ミスは許されなかった。
 親の顔に、泥を塗ってしまうことを避けている私は、小学6年生の時点で夢というもの
がなんなのかを見失っていた。

 幼いころに夢見た、白い教会も。
 幼いころに憧れた、両親の姿も。
 幼いころに望んだ、小さな幸福も。

 なにもわからなくなった。

 ただ、私には音楽の才能があるんだろうな。と思っていただけだった。

23 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 17:38:07.88 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「中野さん」

「……はい」

 音楽の時間。
 これほどに、私を苦しめる時間はない。
 教師も、周りの生徒も私に注目する。
 両親がミュージシャンだから、私にも期待している。
 ……そうではない。私に対して偏見じみた目線を向けているのだ。
 
 ――環境とは、才能に直結する。

 才能は、そのまま実力となる。

 それは、私自身もわかっていた。
 事実、私はクラスで最も楽器を演奏するのが上手で、歌だって上手だ。
 昔から音に囲まれていたので、それがそのまま現れているのだろう。
 音楽教師に言われるままに、リコーダーを吹く。

 レ、ミ、ソ、ファ、ド#、ソ、ミソララ。

 簡単な曲だ。何も、苦労なく吹ける。

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 17:39:01.55 ID:DyqrZUaZ0
そんなもんかねえ

25 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 17:40:12.00 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「上手ですね。それでは、西沢さん。吹いてください」

 私の後ろの席に座っている西沢が、自信なさげに立ち上がる。
 ちらりと、彼女を見る。
 リコーダーを持つ手も震え、音はなんとも情けない。

 レ、ソ、ソ、ド、レ#、ミ、ソララ。

「もう少し、練習しなさい。中野さん。放課後、西沢さんに教えてあげて頂戴」

 それも、私の宿命なのか。
 初めてだけれど、別に戸惑いはしなかった。
 西沢に『じゃあ、放課後に』と簡単に対応して、その時間は終わった。 

26 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 17:49:56.69 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 放課後の教室は、夕日に照らされている。
 花瓶はオレンジの光を反射して、少しまぶしい。西沢がカーテンを閉める。

「カーテン、別に閉めなくってもいいのに」

「そうかな。ちょっとまぶしくって、えへへ」

 西沢は、少し抜けたところがある。
 体育の時間は転ばない日がないし、給食だってひっくり返す。
 早い話がどんくさい。
 普通なら、そのことでクラスの男子からはいじめられたりするものなのだが、不思議なこと
に彼女にはそういったことが起こらない。むしろ、周りが気を使って、彼女が居やすい雰囲気
を作る。
 それが、私には不思議でたまらなかった。
 だって、彼女は周りの足を引っ張っているのだ。咎められないのは、おかしい。
 西沢が椅子に座る。私よりもほんの少し背が高い彼女は、どうしてか私よりも可愛らしい。

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 17:50:41.25 ID:Xhbak3HLO
よう笑み社待ってたぜ

28 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 17:52:13.76 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「えと、始めよっか。よろしくね、中野さん」

 やる気は、ある。
 しかし、実力と結果がそれに追いつかない。
 何度吹いても、彼女のリコーダーからは情けない音しか鳴らない。

「……うーん」

 どうしてかはわからない。
 原因を探そうとしているのだが、イマイチよくわからない。
 指の動かし方も、姿勢だってよくできているのに、どうしてこうなるのかが理解できない。もし
かしたら、西沢が持っているのはリコーダーではないのかもしれない。

「うーん。西沢さん、もしかして――」

「ねえ、中野さん」

 西沢が、私が話しだすより早く口をあける。
 言葉を、紡ぐ。

「中野さんは、どうしてさっきから私の顔を見てくれないの?」

 そして、そんなことを、聞いた。

29 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 18:01:45.16 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 答えられなかった。
 意識してのことじゃない。 
 ただ、人の顔を見られなくなっただけだ。
 ホントの表情を見せてくれる人は、私の周りには誰もいない。
 だから、嘘の表情を見せられるくらいなら、私は人の顔なんて見ない。そう、心の中で
決めてしまっていた。
 でも、そうは言えない。
 人と人は信用していなくてはならない。
 たとえそうではなくても、それを表に出すことは人間関係を構築する中では、禁忌とされ
ている。
 目を見て、話す。
 話を聞いて、自分も話す。
 これが基本。
 だというのに、私は声だけでコミュニケーションを取っていた。目線は、いつだって相手の
足元だ。

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 18:01:48.83 ID:TLbeeq8OP
待ってたよ支援

31 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 18:06:12.34 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「――」

「中野さん?」

 西沢の顔は見れない。
 故に、どんな表情をしているのかはわからない。
 泣いているのか。
 笑っているのか。
 それとも――

「ち、ちが、ちがう、あ、うう、ち――」

 言葉にならない。
 問い詰められているわけではない。
 西沢は、私の在り方に疑問を抱いて、それを素直に口に出しただけだ。
 それなのに……。

「あ! 中野さん。ごめんね? 泣かないで」

 泣く?
 なんのことだ。私は――

「え?」

 頬に、熱くも冷たいものが流れる。
 手で触れてみる。それは、涙だった。
 オレンジ色の教室で、私は実に6年ぶりに、人の顔を見た。

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 18:08:47.38 ID:DyqrZUaZ0
西沢さん!!!

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 18:11:51.28 ID:PFXV3Atp0
はん

34 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 18:12:45.58 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 その顔が、本当に美しかった。

 にこり、と。

 ひまわりのような、笑顔だった。

 ――ああ。これが。

 これがホントの顔なんだ、と。

 心の底から、感動した。

 陳腐な言葉だけれど、綺麗だと思った。

 この人になら、きっと、私は私を見せられる。

 そう思った。

 茶色がかった髪の色。

 赤と黄色のヘアピン。

 ふんわりとした雰囲気。

 理解した。

 彼女が、周りから愛される理由を。

 それから、私と彼女は親友になった。

35 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 18:22:16.01 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「――ねえねえ、梓ちゃん」

「ん?」

 小学校卒業まで、あと一カ月のある日、西沢は私に提案をしてきた。
 小学生の卒業なんていうものは、殆ど意味なんてない。ただ、6年間この学校にいて、もう
ここにいる必要がなくなったから、中学校に場所を変えるというものだ。程度にしてみれば、
引っ越しと変わらない。
 故に私は、中学に入ってから部活をしようだとか、そういったことはなにも考えていなかった。
このままでもいいと、自分の中で納得していたからだろう。
 しかし、西沢は違った。
 完全に、中学に入ったら別世界のように思っており、あれをしたい、これをしたいと私に色
々と話していた。
 私はというと、その話に耳を傾けて、適当に相槌を打つだけ。
 なんとも面白くない子供だと、自分ながらに思う。

「でねでね! 私、梓ちゃんに見せたいものがあるんだぁ!」

 ものすごいテンションである。
 あほな子供、というよりもむしろネジが壊れた猿の人形だ。シンバルをまるで白痴のよう
に叩いている様が、彼女によく合っている。

36 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 18:23:43.35 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「それでね! 梓ちゃんにたなびたいことがあるんだよ!」

 ちなみに、彼女は噛んでいない。
 たなびたいこと、というのはこのクラスで流行っている『頼みたいこと』の上位版だ。っていうか、
私に見せたいものがあるのに、たなびたいとはどういうことなのだろうか。

「梓ちゃんの家に行きたい!!」

「なんでさ」

「憧れているんだ。中野家に」

 親友を家にあげないわけにはいかない。
 実際、私は何度も彼女の家に、お邪魔していたのだから。
 そういうわけで、私は西沢を家に招待したのであった。

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 18:24:00.00 ID:JoyVa1EHO
こんな幼稚園児嫌だな

つーか、見てても可愛くなさそう

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 18:24:38.51 ID:x4iggg4f0
>>37
確かに生意気そうだww

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 18:35:28.74 ID:HT3YjF+20
今までスルーしてたけど結構面白そうだな
ちょっとサイト覗いてみっか

40 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 18:37:08.98 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「お邪魔しまーす!!」

「だれもいないけどね」

 中野家は、基本的には静かだ。
 なんといっても、人がいないのだから。
 このところ、両親は家を空ける時間がさらに多くなった。今では、寝るために帰ってくるか、
もしくはそれすらもせず、帰ってこないということも珍しくない。
 故に、この家に物音はしない。
 音を鳴らさない楽器には、意味なんてない。

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 18:39:44.28 ID:Xhbak3HLO
しえん

42 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 18:40:21.90 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「それで、見せたいものって?」

「えへへ~。
 じゃーん!!」

 ランドセルからリコーダーを獲り出す。
 おもむろに、彼女は演奏を始めた。

「……あ」

 そうだ。
 この曲は、私が彼女と友達になった日に練習した曲だ。
 練習して、こうして完璧に吹けるようになっている。

「ま、まちがってない?」

 演奏を終え、西沢が私の顔を覗き込む。
 ……思わず、頬が緩んだ。
 どうしてか、彼女が愛おしくなった。

 思えば――それが私の初恋だったのかもしれない。

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 18:45:49.93 ID:JoyVa1EHO
唐突に百合だな

44 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 18:50:33.96 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「梓ちゃん! 梓ちゃん!」

「――え?」

「どうだった? どうだった?」

 それから、私はどれくらいの間呆然としていたのだろう。
 こんなにも、本当の温かさを感じたことが、なかったから。
 こんなにも、うれしいことなんて、きっとなかっただろうから。
 彼女の顔を、見られなかった筈の、他人の顔を眺めていた。

「うん。すごい、上手だったよ」

「やったー! 私ね、少し心配だったの。梓ちゃんが私の演奏聴いて、怒りださないか」

「そんなことないよ。なんでそう思ったの?」

 西沢は、ひまわりのような笑顔を浮かべて答える。

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 18:50:34.85 ID:Q4Dh6KiJ0
またお前か

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 18:52:29.27 ID:x4iggg4f0
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.    /八::::::::::| r'Y^Y^Yヽ┐   r::, ┌y^Y^'ト、_:厶---、 |:::::::::∧::}
──'─┴─┴ヘ ヽ││ {┴‐───┴'し| / /,x┴─‐┴─┴ー'────
`  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄‐ヘJー'ー′ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ー'ー'´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 18:52:52.38 ID:ez3OKcsQ0
続き気になってたところだった支援

48 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 18:53:19.30 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「だって、梓ちゃん。音楽の才能が滅茶苦茶あるんだもん。よくもこんなキチガイ演奏を
って言われちゃうのかと思ったんだよ」

 ……音楽の、才能。
 そんなことを言われたのは、初めてだ。
 確かに、私には環境があった。
 しかし、それは両親が作りだしたもの。私には関係がない。
 だから私は、音楽が嫌いだった。両親が作った環境があるからこそ、自分が認められるん
だという、現実が嫌だったから。
 それは、否だったのだ。
 私には音楽の才能があるのだ。

「――よぉし」

 クローゼットを開ける。
 かつて、父が買ってくれたギターを引っ張りだす。
 ――そうだ。
 私には、才能があるのだから。

49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 18:54:25.67 ID:x4iggg4f0
よくもこんなキチガイ演奏を!

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 18:55:52.60 ID:Xhbak3HLO
百合展開





全力支援

51 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 19:02:30.07 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 そうして、卒業式を迎えた。
 通学路の桜はピンク色に染まり、私はその中を走りぬけていた。
 隣には、誰もいない。
 いつものように、両親は地方に行ってしまっているからだ。

「――ああ! もう!」

 どうして走っているのか。
 簡単な話だ。
 今現在、時刻は8時を過ぎたところ。
 早い話が、遅刻である。
 卒業式に遅刻という、なんとも不名誉な状態に、私はあった。

 昨晩はギターの練習をしているうちに、深夜3時になっていたのだ。
 それから眠ってしまい、気がつけば7時半。髪を整える時間もない。
 故に、いつものツインテールは諦め、髪を下していつもの通学路を走っている。

「……あのクルマに乗せてもらえればなあ」

 信号待ちをしているリムジン。黒い高級車に乗っているのは、見るからにお嬢様の
女の子。きっと、私と同じくらいの年ごろだろうが、どうしてか表情は暗い。まるで、
かつての私のように。

「……」

 目があった。 
 太いまゆ毛は下がり、憂いを感じる表情をしていた。

 彼女と私は――きっと、永遠に交わることはないのだろう。
 その時の私は、そんなことを考えながら学校までの道のりを全力疾走していた。

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 19:11:00.87 ID:IGnvPWY50
しえ

53 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 19:18:22.08 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 学校に着くと、すでに生徒たちは教室前で入場の準備をしていた。
 下級生から受け取った花飾りを胸に付ける。周りの女子は、ある程度胸が成長して
いるのに、私はまったく成長していない。
 どういうことなのだろうか。

「梓ちゃん! 遅かったね!」

「寝坊、しちゃってさ」

 息を整えながら、西沢と話す。
 小学生としての中野梓は、今日で終わりなのだと思うと、少しだけ寂しくなった。
 それでも、やっぱり終わりというものは訪れる。
 どうにもならないこともあるのだ。

「それじゃあ、卒業生は入場しますよー」

 担任の号令で、廊下は静かになる。
 胸に何を秘めているかは、千差万別だが、今日は卒業式、区切りの日だ。

「卒業生、入場!」

 たとえ、両親がいなくても私は私なのだから。

54 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 19:22:06.51 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

今から食事。

感想書いてくれると嬉しい。

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 19:22:52.57 ID:wqSdz2kkO
今回はちゃんと最後までやってくれよ

56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 19:48:20.22 ID:jyNgMnIfO
>>54
感想
ブログファビョりすぎてて怖い
もっと気楽にSS書いたら?
自称んん…と並ぶVIP2大書き手なんだからさ

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 19:51:55.99 ID:41AC6hfJO
感想は書き終えてからかいてやる

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:04:23.66 ID:Xhbak3HLO
紫煙

59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:06:07.43 ID:kEXsBHmqO
マダー?(チンチン

60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:07:46.90 ID:JoyVa1EHO
お前昔、書いてる途中で抜ける書き手はうんたらかんたらって言ってたクセに……

SSくらい飯食いながらでも書けるだろう……(´・ω・`)

61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:08:52.20 ID:M/47R3bYO
VIP二大書き手を知れて良かった

62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:12:26.76 ID:2u11TzI8O
>>61
んん…さんはVIP引退しちゃったけどね

63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:16:06.87 ID:jyNgMnIfO
>>61
ソースはどっかのSSスレでの自演バレな
そうか、んん…引退したから笑み社がVIPでNo1の書き手になったのか

64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:17:37.73 ID:JoyVa1EHO
んん…が引退したから笑み社がNo.1の書き手だね














んん…舐めんなよアホンダラ

つーか、笑み社より上の書き手なんざ今のVIPでもいくらでも居るわ

65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:19:30.61 ID:LFETbZAI0
えみしゃが一番面白いっていうか一番知名度があるって事なんだよね
コテつけてるから名無しよりも覚えやすいし、えみしゃ文体生みだしたりしたし
ただ延々焼き直し書いてた時代は糞だった

66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:21:48.75 ID:SWUaRqi3O
|ω゚)…

|ω゚)!

|彡

|つ④

|ノシ④



67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:26:48.00 ID:2u11TzI8O
んん…さんはブログでSS書いてるよ
VIPに書かなくなっただけで

68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:28:56.80 ID:Xhbak3HLO
書き手で優劣つけるなよ
批評家ぶんな

書きたい奴が書きたいこと書いてて面白いかどうか
それでいいじゃないか

69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:34:46.82 ID:JoyVa1EHO
>>68
こういう盲信的な信者がいるから困る
実際、んん…と笑み社じゃ実力の差がありすぎただろ




「まってたぜ笑み社」とか言ってる奴が書き手で云々とか説得力がない

70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:45:00.21 ID:Xhbak3HLO
んんでも笑み社でもSSならなんでもいいんだよ
便所の落書きに何を求める

71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:48:00.11 ID:M/47R3bYO
>>62>>63
じゃあ現VIPSSNo.1書き手はこの人って事か、ありがとう

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:50:31.65 ID:JoyVa1EHO
また自演か

73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 20:56:17.93 ID:Xhbak3HLO
ああ、自演か
死ね

74 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 21:12:05.18 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

ただいま。

ちなみに、私はドコモユーザーだから自演はできない。

75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 21:12:47.06 ID:TyOwjp4x0
おかえり


76 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 21:18:21.23 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 ――中学生ともなると、多くの人が音楽に対して憧れを持つことになる。

 テレビで流れてくる音楽、
 CDで聴く音楽、
 演奏する音楽、

 それらに対して、今までとは違う気持ちで観賞するようになってくる。
 私は幼年のころより、音楽に触れる機会が多かったため、音楽に対しての認識が固まる
のが人よりも早かった。
 しかし、大多数の人間は、この中学生の時期に音楽への思いを固める。
 演奏する者もいれば、聞くだけの人間もいる。
 演奏するとなれば、人は仲間を欲しがる。
 仲間がいることで、自分の趣味の幅が広がるからだ。

「おい中野。おまえ、親がミュージシャンなんだって?」

 故に――

 私の周りに、そういった人たちが集まってくるのは必然ともいえるわけだ。

77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 21:21:40.29 ID:Xhbak3HLO
しえんしえん

78 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 21:27:06.21 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 彼ら3人曰く、バンド活動をしたいということらしい。
 小学校からの同級生であり、昔からピアノをやっていたという『千住』。
 中学校で初めてクラスメートになった。ドラム志望の『高山』。
 この二人は知っていた。クラスは違ったりしたが、小学校が一緒だったからだ。もっとも、
彼らの顔を見ることは一度としてなかったが。

 もう一人はベースボーカルを志願している『荻久保』だ。彼とは小学校が違ったため、
今日が初対面だった。
 彼、荻久保は少し不良っぽいところがある。上級生が彼を呼び出すことも、入学して1カ月
経ったが一度や二度ではない。
 
 ……よくある話だ。
 
 きっと、彼らは異性から注目されたいのだろう。
 自分は他の男とは違う。俺はミュージシャンなんだ、と。
 そのために、私に声をかけた。
 私の両親がミュージシャンであることを知っていて、近寄ってきた。

 ――ああ。
 そういうのは厭だ。飽き飽きしている。

 だから――私は――

「そう。がんばってね」

 と。
 一言だけ告げてその場を離れた。

79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 21:29:49.88 ID:x4iggg4f0
ここでレイプですね

80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 21:34:50.21 ID:Xhbak3HLO
rapewkwk

81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 21:38:39.39 ID:CuGWFOMfO
笑み社のSSで笑えるのは厨房までだろ

いつも展開同じじゃねぇか

82 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 21:40:20.99 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「梓ちゃん! なんだって!?」

 教室に戻ると、西沢がものすごい勢いで尋ねてきた。
 一年付き合ってきてわかったことだが、彼女を表現する際は『ものすごいテンション』と
いう言葉が非常に的確だ。
 何事にも一生懸命で、何事にも手を抜かない。
 手を抜かないが、結果としてはドジを踏んでしまう。
 だから失敗してしまう。だが、それだからといって、周りから批判されるということはな
い。
 彼女の懸命さを、みんながわかっているからだ。
 私だって、彼女がいつだって頑張っていることくらいはわかっている。
 先刻の話をすると、西沢はさらに笑顔になった。
 これ以上ないくらいの笑顔。否、さっきまでの笑顔だって、私にしてみれば特上のも
のだ。それを超える笑顔なのだから、これはビッグバン級だ。

「なんでやらなかったのさー!」

 両腕をブンブンと振り回しながら抗議する。
 彼女は、人のために何かを考えることに、本当に長けている。故に、信頼を得る。
 だから、支えてあげたくなるのだ。

 そんな人間が彼女、『西沢結』だった。

83 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 21:48:02.14 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「なんでだろうね」

 確かに、言われてみればそうだ。
 私は一年前、西沢に言われた。
 
 才能がある、と。

 ならば、どうして音楽をやらないのだろう。
 今だって、毎日ギターの練習をしている。なのに、どうして断ったのだろう。
 理由がわからない。
 ただ、やっぱり知らない人というか。顔を見れない人とバンドをするのが厭だったから
だろうか。
 それとも、彼らの願望が透けて見えてしまったからだろうか。
 どうにも掴めない。
 自分で、自分がわからない。

「梓ちゃんは才能まみれの人間なんだから、やってみなよー」

 ぶーぶー言いながら文句をたれる。
 それを訊くと、なんとなく私も意見が変わってくる。

「じゃ、じゃあ少し考えてみるね。あんまり、気が進まないけど……」

「うんうん。よい返事を期待しておるぞ。それと、帰りにクレープ食べに行こう!」

 本当に、彼女には敵わない――。

84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 21:56:17.29 ID:ez3OKcsQ0
ゆい、か

85 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 21:59:27.13 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「――あのさ。梓ちゃんって、私のことなんて呼んでる?」

 私たちがよく行くクレープ屋は、少し特殊だ。
 喫茶店のような、アンティークな店内には5つのテーブルが用意されている。注文やクレー
プの受け取りはカウンターで行うのだが、そのテーブルで食べることができるのだ。
 クレープの種類も、ハンドタイプとディッシュタイプと全て合わせると60種類を超える。西
沢は、いつかこれを全制覇することが目標だと言っていた。
 私が今食べているのは、ディッシュタイプのチョコレートバナナクレープ。上品な皿に盛りつ
けられたクレープの生地は厚めで、まるでケーキのようだ。
 この味で、この環境で、さらに値段も安くて穴場という、まさに神条件が揃った店が、ここ、
『クレープ羊の斎藤』である。
 店主は白髪の男性であるのだが、まったく年老いているようには見えない。190センチを
超える体躯に、発達した筋肉が伺える腕は、年齢を予想させない。
 そんなところで、私は西沢と話をしていた。

「……西沢って呼んでるね。普通に名字」

「素敵だわー。友達、いいや。親友だというのに名字で呼ぶ! 実に他人行儀で素敵だわー」

「なにが言いたいの?」

「名前で呼びやがれってんだー!!」

86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 22:06:25.68 ID:JoyVa1EHO
ドコモユーザーだから自演はできない(笑)

脳みそ腐ってんじゃねえか?

87 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 22:06:56.98 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 そういうことなのである。
 彼女のこういう一面を見るのは、きっと私だけであろうが、彼女は時としてこんな突拍子も
ないことを言い出す。
 嫌いではないのだが、以前、鶏を家で飼うと言い出したのには驚いた(そして止めた)。

「親友ですよ、私たち。ベストフレンド! だというのに、梓たん」

「梓たんはやめて」

「梓たんは私のことを名字呼び放つわけですよ。デンジャラス!」

「やめてってば。それと、デンジャラスは危ないって意味だからね」

「MJ?」

「なんでMJ知っててデンジャラス間違えるの」

 彼女のすごいところは、こういった突拍子のない行動と言動もそうなのだが、知識が
謎というくらいに偏っているところだ。
 いったい、どういう生活をすればこういう偏り方ができるのだろうか。

88 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 22:08:54.73 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「とにかく、私のことは名前で呼んでね。そうでないと私は梓たんを永久に梓たんと呼び
つづけるよ。もしくはあずにゃん」

「あずにゃんはおかしい」

「梓たんは猫っぽいから。さあ、どうする? Who's Bad!?」

「世界に聞いてるの?」

「梓たんに聞いてるの」

「だよね。
 わかったよ。これからは結って呼ぶように心がけるよ」

 こうでも言わなきゃ、彼女は引き下がらないだろうから。
 それに、呼称に関してこだわってるわけでもないわけだし。

「ふむ。それではあずにゃん」

「そっちが気にいったんだ。でもそれは許さないよ、結」

 それから、私たちは他愛のない話しをして過ごした。

 本当に、意味のない話を。

89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 22:14:27.57 ID:1/OCnGUB0
続けろ

90 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 22:16:24.52 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 家に帰っても、誰もいないことはわかっていた。
 暗い玄関に電気をつけて、音のしない廊下を歩く。

「……ふぅ」

 ソファーに座って、テレビをつける。
 見たいテレビなんてない。
 ただ、こうでもしないと、本当に独りだと思ってしまう。
 音が、欲しい。

「あ。この人――」

 テレビには、卒業式の日に見かけたクルマに乗っていた女の子が映っていた。
 どうやら、彼女は絵のコンクールで最優秀賞を獲ったらしい。
 周りの記者からは称賛の声が飛んでいる。
 質問されたことに淡々と答える彼女は、本当に嬉しそうではなかった。
 本当につまらなそうで、本当に悲しそうで。

「この人、私と似てるかもしれない」

 私には結がいる。
 この人にも、そんな人がいるのだろうか。
 いればいいと思う。

「ごはん、作ろう……」

 作る、とはいっても冷凍グラタンだけれど。
 ソファーから立ちあがって、冷凍庫から、一人の食事を取りだした。

91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 22:23:43.39 ID:Xhbak3HLO
遅いが紫煙

92 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 22:25:12.80 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 さて、どうしようか。

 父のギターで、いつものように練習をしているが、今日のことに関して考えていなかった。
 バンド活動をどうしようか。
 やるのか。
 やらないのか。
 私としてみれば、やってもいいと思う。
 ギターなら練習してきたから、間違いなく人よりは弾けると思う。
 ただ、私は彼らを知らない。同級生であるということしか知らない私は、彼らがどういった
人間なのかをまったく知らないでいる。
 これは非常によくない。

 見ず知らずの人に告白されたとき、人はどう感じるだろうか。
 嬉しい、だとか。緊張、だとか。そういったものよりも先に恐怖に似たものを感じると思う。
 自分は相手を知らない。
 でも、相手は自分を知っている。
 気味が悪いと感じるのは、決して不思議ではない。
 今の私はまさにそれだ。彼らは私の両親がミュージシャンであることを知っている。つまり、
私の才能をある程度は知っているということになる。
 そこをいうと、私は彼らについてはなにも知らないのである。音楽の趣味から、何から何ま
で、無知である。
 そんな人たちと、バンドをやって上手くいくのだろうか。
 わからない。
 それは、やってみなくてはわからない。

「……どうしよ」

 まあ、いいか。
 寝てしまおう。
 今日は、たくさん考えたのだから。

93 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 22:29:55.67 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 朝目が覚めると、目の前には彼女がいた。

「なにしてるの?」

「通い妻かな」

 私よりも少しだけ大きな身体が、私の上に乗っている。
 重い。
 布団を跳ね飛ばし、結ごと丸める。
 抵抗しようとするが、そうはいかない。私の素早さはたとえ相手が二回こうそくいどうして
も逆転できないレベルだからだ。

「ちょ! やめ! 梓ちゃーん!」

 やめるものか。
 今日は土曜日。休日は昼まで寝てることを信条としている私を、まさか午前6時に起こす
なんて考えられないのだから。

94 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 22:38:56.52 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「……さて、結はどうしてうちに来たの?」

「だってさー。今日もお母さんたちいなんでしょ? 退屈してるんじゃないかなーって」

「退屈を眠ることで解消するのが、私の過ごし方なの」

「ご飯は?」

「昼まで寝て、夜だけ――」

「そんなのダメだよ!! だから小さいんだよ! 梓ちゃんは!」

 その通りだ。
 私の身長は現在143センチ。どう考えても小さい。
 昔から、私の体は小さい。それはわかっている。前へならえだって、腰に手を当てる
こと以外したことがない。
 そんな私を作ったのは、間違いなく小食なところだろう。
 甘いものなら好きなのだが、どうしてもお腹が減りにくい体質らしく。また、お腹が減ら
ないのであれば、食事も採らない。本来ならば母親が食べさせるのであるが、自分で
食事を作ってきた私にはそれがなかった。
 故に、夜しか食べないという偏った食生活になってしまったのだ。

「よし! 私こと中野結が、梓ちゃんに朝食を作ってあげましょう!」

「いつ嫁に来た。あと、結は料理からっきしでしょう?」

 家庭科の時間にゆでたまごを破裂させた事件は、出身小学校では語り草だ。
 ベットから立ち上がり、本当に久しぶりな、土曜の朝食を作りに台所へと向かった。

95 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 22:48:52.99 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「これはなに?」

 黄身のない目玉焼き。目玉がないので、これはなんという料理になるのだろう。
 確かに、私は確認した。
 結がたまごをフライパンに落としたのを、焼ける音まできっちり。
 それなのに、どうしてこうなったのだろうか。

「黄身は?」

「ライコネン」

「そうじゃなくって。どうして白身だけ?」

「Holy wars」

「パニッシュメントデューを知っててなぜ目玉焼きを焼けない」

96 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 22:50:15.27 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 結は笑ってごまかそうとするが、そうはいかない。
 といいたいのだが、糾弾したところでわかりはしないことだ。とにかく、この白身だけの
目玉焼きを食べるしかない。

「ところで、私のチャージング棒は?」

「箸なら割り箸あるから使って」

「はいはい。私、絶対しゃぶらないから」

「やってみてよ」

 現在、午前7時。
 朝食を食べている間、私たちは今日の予定について話をしたのであった。

97 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 23:00:04.47 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

少し休憩する。

98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 23:04:22.21 ID:1/OCnGUB0


99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 23:04:53.34 ID:Xhbak3HLO
携帯解除+ナウシカで落ちるかと思ってたけどそうでもなかった

100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 23:20:51.00 ID:h2GYQsSG0
しえん

101 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 23:25:38.65 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 それからというもの。私たちは家から出ずに休日を過ごした。
 他愛のない話をして、意味のないことをして、笑いあって。
 それだけでよかった。
 音のない、この家。
 音楽に関するものが溢れていても、音はしなかったこの家に、笑い声があるのなら、
それでよかったのだ。
 結がいて、私がいる。
 なんだ、それだけでいいじゃないか。

「うん。そうだね」

「どしたの?」

「私、バンドやってみるよ。結に聞かせられるくらいに上手くなってみせる」

 瑣末なことを考えていたことが、ばからしく思えてきた。
 だって――私は音楽の才能があるんだから。

「……うん。
 頑張って! 梓!!」

 結も、こうして応援してくれる。

 それでいい。
 それだけで、いいよ。

 こうして、私は初めてバンドを結成した。
 素人の、中学生のお遊びバンドでも、それでもいいと思ったのだ。

102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 23:35:33.07 ID:B2ouYc6A0
この展開は非常によくない
間違いなくレイプ

103 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 23:35:35.93 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 それから、1年ほどの月日が過ぎた。

「ふう……。これで、3曲くらいはできるな」

「もしかして、俺たちって天才か?」

 中学生には時間がある。
 そのうえ、吸収力も大人の比じゃない。
 故に彼らは、余った時間はすべて練習に使った。お金がないということで、スタジオ練習
はほとんどできないが、その分個人練習はみっちり行っていた。
 確かに、楽器歴は短いのかもしれない。
 でも、乏しい経験を努力でカバーしている彼らに対して、私は好感を持っていた。

 好感こそ持っているが、彼らの顔を見ることはできずにいる。
 信頼していないわけじゃない。
 認めていないわけでもない。
 でも、どうしてか彼らの顔を直視することができない。

 ――練習している彼らは、確かにすばらしいのに、どうしてなのだろうか。

104 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 23:44:02.46 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「練習お疲れさん。汗、拭きなよ」

「うん。ありがと。
 ……っていうかこれ、ティッシュじゃん。張り付くよ」

 スタジオの外では、結がいつも待ってくれている。
 中には入ってこない。
 その理由を聞いたとき、結は笑って答えた。

『――だって、初めて梓の演奏を見るときはライブで、最高にカッコいい梓がいいんだもの』

 その言葉を聞いたから、私はこうして汗をかいてでもギターを弾いている。
 両親からもらったムスタングは、私といつも一緒だ。
 結も、私といつも一緒だ。
 唯一、私を色眼鏡で見ない人。
 それが、彼女なのだ。

「でもさ、結。寒くない?」

「寒さは若さでカバー。カバの歯には鳥がとまるんだぜ?」

 わけがわからない。

105 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 23:45:38.83 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

「……風邪とかひいちゃ、嫌だからね」

「嬉しいよ~。梓が私を心配してくれる~」

 結が私にもたれかかる。
 スキンシップが大好きな彼女は、私が少しでもいいことを言うとこのようになる。
 可愛いのだが、少し暑苦しかったりもする。

「ねえ、梓――」

「なに?」

 雪が、降ってきた。
 今年に入って、初めての雪だ。
 中学二年生の冬。もうすぐ三年生になる冬だ。


「もし、私がいなくても――梓を見てくれる人は、たくさんいるんだからね――」


 白い雪の中で、彼女はそんなことを言った。

106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 23:47:24.02 ID:ez3OKcsQ0
ああ・・・

107 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 23:49:47.50 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 私が知らないところで、綻んでいた。


 私が知らないところで、進んでいた。


 私が知らないところで、始っていた。


 私が知らないところで、拱いていた。


 私が知らないところで、決っていた。


 私が知らないところで、終わっていた――

108 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/19(金) 23:55:35.74 ID:24GhLu0Z0 ?2BP(2050)

 私は知らなかった。
 男女が、バンドを組むという意味を。
 男女が、バンドを組んだ結果というものを。

「中野、俺と付き合わない?」

 始まりは、高山の言葉からだった。
 恋愛、というものを私はよくわからない。
 結と一緒にいると、気持ちが安らぐ。でも、これを恋だと断定するには、きっと至らないだろう。だ
から、私はこの誘いを断った。
 
 バンド仲間でしかなかった。
 恋愛を知らなかった。
 人が、怖かった。

 理由なんてその3つだけ。
 それで十分だ。

 それからだ。
 バンド内で、少しずつ不協和音がしていたのは。

109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/19(金) 23:58:38.88 ID:5N9wLFEG0
何か死亡フラグ立ってる

110 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 00:01:01.52 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

「おい、リズムキープちゃんとしろよ。弾きずれえ」

「……うっせえな」

「は?」

 スタジオ練習をしても、以前の雰囲気ではなくて、一触即発。
 私はというと、男の圧力におろおろするほかない。
 少しずつ、違っていくのがわかる。
 私がやりたかった音楽とは、違う。

「でも……私がやりたい音楽って――なに?」

 そうだ。
 私が人に偉そうに言える立場ではないことは、承知している。
 両親が与えた環境。
 それに甘えて、音楽を始めて。
 両親が与えた環境。
 それに溺れて、勝手に人を嫌いになった。

 ――ああ。
 なんだ、これ。

「私には、なにもないじゃないか」

 無人の家に帰る途中、空を仰ぎ見て、そんなことをつぶやいた。

111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 00:02:46.98 ID:y/MxKaXc0
弾きずれえ
弾きずれえ

112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 00:06:54.01 ID:8sJ8vr1Z0
Be持ちには支援いらないんだっけ?

113 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 00:11:28.36 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

「高校、どうしよ……」

「梓、もしかして高校迷ってたりなんかする?」

「面と向かってどうしようって言ってるのに、どうしてもう一度尋ねる」

「いやー! 私も勉強ダメダメでさー! 目標の学校に行けるかどうかって!」

「目標の学校なんてあるんだ。意外」

「意外ってひどいねこりゃ。私にだって目標くらいあるさ」

 ホントに意外だ。
 結は、基本的には考えない。
 考えるのだけれど、傍目から見ると明らかに考え足らずだ。
 その結が目標を決めているなんて、このクラスの人間は一人残らず仰天するだろう。

114 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 00:12:48.94 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

「どこ行くの? あと、以降Beat it禁止」

「な! それ封じられたら何もしゃべれないでしょ! 私が行きたいのは桜高だぁ!」

「桜高っていうと、桜ヶ丘?」

 桜ケ丘というと、この辺ではかなりのレベルだ。テストで5教科合計300点以上取っ
たことのない結では、そうとう厳しい。
 私は割と優秀なほうなので、桜高ならすんなりなのだが。

「……へえ、なんで?」

「けいおん部!」

 楽器のできない彼女は、私に言った。
 桜高のけいおん部。そこに入りたい、と。

「それなら、私もそこに行こうかな。一緒に、さ」

 だったら、断る理由はない。
 私も、彼女と一緒にいようと決めた。

 それは4月のこと。
 まだ、私は何も感じなかった。

115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 00:16:18.17 ID:f/IirEHMO
ありゃー、結(ry

116 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 00:19:56.08 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

「あのさ、桜高のパンフ見た?」

「見てません!」

 ……考えが足りないどころじゃない。この子、まったく考えていない。
 学校からもらった桜高のパンフレットの角を、結の頭にコツリと当てる。
 ふぎゃ、と小さな悲鳴をあげながらも、結はそれをぺらぺらとめくる。

「けいおん部がない!」

「はい」

 その通り、彼女はろくに調べもせずに、ないものを目標としていたのだ。
 なんというアホの子。なんという可哀想な子。

「でも、制服可愛いねえ。よし、桜高の目標は制服だ」

 方向転換。
 彼女は常にまっすぐなのだが、その分直角カーブも鋭い。
 つまり、彼女にとって初志というものは貫徹するものではなくて適宜修正していくものなの
である。
 ……というより、大幅に変えているのかもしれないが。

「梓もバンド頑張ってね! 今年は文化祭で発表するんでしょ?」

「う、うん……」

 バンドが空中分解しかけていることを、彼女には言えなかった。

 ――そう、言えなかったのだ。

117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 00:20:21.50 ID:u9p3h5Tg0
結南無

118 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 00:26:59.25 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

「文化祭、演るんだろ!? さっさと準備しろよ!!」

「チッ。うっせーな」

「――」

 放課後、特別に音楽室を使わせてもらっているのに、このザマだ。
 千住だけがやる気を出しているだけで、高山と荻久保はまったく練習をしようとしない。今
となっては、このバンドもバンドとは言えない。
 唇を噛む。
 どうして。
 なにが悪かったの。
 私が、なにかしてしまったのだろうか。
 こんな、こんなことを、私は望んでいるんじゃない。

 結に――見せてあげられない。

「ねえ、練習しようよ……」

「俺は本番に強いタイプなんだよ。それによ、文化祭は11月だぜ? まだ半年もあるじゃねえ
か」

 下を向いて、蚊のような声で何度も何度もつぶやく。

「練習、しよう」

「練習しようよ」

 それでも、彼らには届いてくれない。
 だって――私は彼らの顔を一度も見ていないのだから。

119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 00:27:57.46 ID:5vyeJB+Q0
                 ______
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     ハ::::::::::::|ハ|:::::∧             イ ::::::/   :|::::::::::::八
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──'─┴─┴ヘ ヽ││ {┴‐───┴'し| / /,x┴─‐┴─┴ー'────
`  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄‐ヘJー'ー′ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ー'ー'´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 00:30:07.23 ID:vpqOHErP0
反省してまーす

121 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 00:34:15.82 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

 ――バンド内の空気は最悪だった。

 淀んでいて、
 濁っていて、
 無意味で、
 無価値で、

 結局、彼らにとって音楽というものは自分の中の『流行り』だったのだ。ベースを弾いている
自分が、カッコいいと思える時期があって、ただ単に、それが過ぎてしまっただけなのだ。
 他人まで巻き込んだ流行。
 彼らにとってしてみれば、たったそれだけのことだったのだ。
 唯一やる気があった千住も、気がつけば練習をしなくなり、私たちのバンドは、自然消滅
に近い状態になっていった。

122 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 00:35:07.17 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

 ――なんだったんだろう。

 独り、浴槽で自嘲(わら)う。
 一過性のものだった。
 彼らにとっては。
 でも、私には恒久的なものだったんだ。
 音楽というものは。

 父の言葉を思い出す。

『梓。音楽は、みんなが楽しめるようになって初めて音楽っていうんだ。それを、 決して忘れ
るんじゃないぞ』

 音を楽しむ。
 だから、音楽だ。
 でも――でも――

「もう、楽しめないよ……パパ……」

 携帯電話が鳴る。

 ――着信は、結からだった。

123 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 00:39:40.63 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)






「ごめんね。私――梓の演奏、聴いてあげられない」






124 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 00:41:29.36 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

 携帯電話がごとりと落ちる。

 意味が、わからなかった。

 だって、一緒に桜高に行くって。

 私のカッコいい姿見てくれるって。

 ずっと一緒にいてくれるって。

 言ったのに。

 約束、したのに。

 夏の香りがなくった10月。

 私は、たった一人の親友が離れていく声を聞いた。

125 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 00:47:35.41 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

 西沢結は、11月3日を以て転校する。

 担任が、そんなことを教壇で言っている。
 目の前には、当人である結が座っている。
 教室の視線が、結に注がれる。
 結は頭を掻きながら――

「えへへ、文化祭の合唱コンクール。一緒に歌えないや。ごめんね」

 そんなことを言った。
 私は、なにも考えられなくなっていた。
 だって――私にとって彼女は全てだったから。
 色眼鏡を通してでなくては見てもらえない自分を、本当の意味で見てくれたのは、彼女
だけだったのだから。

「――梓、ごめんね」

 謝らないで。
 謝られたら、涙が止まらなくなるから。
 謝らないで……。お願い……。

「結。絶対、絶対に私は諦めない。
 私、なにがなんでも、結にカッコいいところ見せる――!」

 結は、にこりと笑って頭を撫でてくれた。
 その姿は、いつもとは逆だった。

126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 00:51:39.06 ID:YkeCMRHRO
チャー研ネタがちりばめられてるな

127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:01:03.96 ID:CyCB+uNYO
細かい事だけど卒業式にはいくらなんでも親は来ると思うぞ
あと、文化祭の半年前から音楽室って貸してもらえるか?
どうでもいいけど気になったので一応

128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:02:17.81 ID:hJvOsv+9O
えー…

129 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 01:02:20.12 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

「お願い、文化祭の練習して」

 放課後、私は三人を呼び出した。
 場所はいつものスタジオ。
 私が予約したのだ。
 彼らは、どんな顔をしているのだろうか。見ていないのだからわからない。
 でも、きっと怒っているのだと思う。

「あのさぁ。中野、俺ら、お前がミュージシャンの子供だから入れたわけよ」

「ちっとは話題つくりでもしてくれんのかなって思ってたのに、なんにもしないから、やる気
もなくなるだろ。ツラがいいからって、ちやほやされると思うなよ。ゴキブリ女」

 ――違う

「そうそう。お前なんて、中野じゃなかったら誰にも見向きされないんだよ」

 そうかもしれない。でも――

「どーせ、西沢も同じこと思ってるぜ?」

 ――違う。

「私は! 結に見せなきゃいけないの! 結に、カッコいいところ見せなきゃいけないの!」

 お前たちに――

 一過性の流行だけで音楽をしてきたお前たちに――なにがわかる――!!

130 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 01:03:41.57 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

 もう、逃げたりしない。
 しっかりと、彼らの顔を見て言う。

 でも、彼らはわかってなんてくれなかった。

「おい――」

 荻久保の合図で、高山と千住が私の両手を掴む。
 ――されることを、直感的に理解すると怖気がした。

131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:06:53.04 ID:+5wd1BVm0
よし「俺」の仕様を許可する

132 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 01:07:16.10 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

 暴れる。

 それでも、私の小さな体を、彼らは離してくれない。

 暴れる私に、荻久保は拳を入れる。

 それだけ。

 たったそれだけで、私の意識は刈り取られる。

 それから先は、覚えていない。

 なにが起こったのかもわからない。

 ただ――目が覚めると目の前には男がいた。

133 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 01:16:28.73 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

「怪我はありませんか?」

 男が問うてくる。
 190センチはあろうかという大柄な男は、執事服を着ていた。
 その姿はどこか見覚えがあって、見知った人のような気がする。
 でも、腹部の痛みに思考が巡らない。

「大丈夫です。腹部の衝撃は大したものではありません。明日には治っていることでしょう」

「……貴方、だれですか?」

 男は、少しだけ天井を見上げる。
 その目は、少しさびしげで――

「私のことは、瑣末なことです」

134 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 01:17:36.02 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

「――じゃあ、なんで、私を助けてくれたんですか?」

「私は、貴女によく似た人を知っています。
 名前に縛られ、名前に固執し、名前に人生を決定される。そんな人を、知っているからです」

「……その人は?」

「もう、羽ばたきました。自らの意思で、自らの翼で」

 男は、私に紙を二枚手渡す。
 スタジオの照明で、顔はよく見えないけれど、白い髪が見えた。
 ――ああ。この人は。

「クレープ屋の、おじさん――」

 男は何も言わずに出て行った。
 でも、結局私は変えられなかったのである。
 彼らを。説得できなかったのだ。

135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:30:38.27 ID:f/IirEHMO
支援

136 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 01:33:29.87 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

 それから、文化祭の日まで、結は学校を休む日が多くなっていった。
 引っ越し先の学校との手続きや、引越しの手伝いをしているらしい。

 私はというと、少しずつ人の顔を見れるようになっていた。
 結が言ってくれたことを、完全に理解できたわけではないけれど、言おうとしていた
ことはわかる。
 私は、中野梓は中野でなくてもいいのだと。
 他人がどう思おうと関係ない。
 私は、私なのだから。
 それを、どうして気が付けずにいたのだろうか。
 つまらないことで悩んで、つまらないことで気を落として。
 今となっては、笑いさえこみあげてくる。

 ――そうして、文化祭の日がやってきた。

137 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 01:42:10.60 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

 ――学校内は盛り上がっている。
 間違いなく、一年の中で最も盛り上がる行事だろうから。
 もちろん、私のクラスも合唱コンクールに対しての思い入れはものすごいものだ。
 だが、私自身は違った。
 結は今日、引越し先に行ってしまうのだ。
 どこかは教えてくれなかった。
 でも、私は絶対に結にカッコいいところを見せると決めたのだ。
 それは――未来の話ではない。
 今日だ。
 今日、見せなくては意味がない。

「……」

 そのためには、合唱コンクールなんて出ている暇なんてない。
 今すぐに、学校を出なくてはならない。
 そも、どうして学校に来てしまったのか。
 結が昨日、電話で言っていた。絶対に学校に行け、と。
 それを守ったのだから、もう私はここに用はない。

138 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 01:43:05.29 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

「ねえ、中野さん」

「え?」

「行ってきて。西沢さんのところ」

「……でも、合唱コンクールはいいの?」

 引き止められる、と思っていた。
 一年で最も盛り上がるこの行事を抜けるには、誰にも見られないようにと考えていた。
 それは否だった。クラスのみんなが、私に行けと言ってくれている。

 ――なら、答えは一つだ。

 私は、ムスタングを背負って走った。
 行先は、結の家に決ってる。

139 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 01:50:00.79 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

 どうしようもないくらいに息が荒くなっている。

 それでも、構わない。

 だって、私を変えてくれた人に、会わなくちゃいけないのだから。

 こんなにも、汗をかいて、

 こんなにも、全力で――

 どうして、私は一度も言えなかったのだろう。

 ほんの数秒で言える言葉を、どうして言わなかったのだろう。

 私は――

「ゆいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」

 家の前、クルマに乗り込む寸前の彼女に向って――

「大好き!!!!!! ホントに、ホントにありがとう!!!!」

 精一杯、叫んだ。

 ギターもなにもいらない。

 音楽に縋っていた自分が馬鹿みたいに思えるくらいに――

 自分の声だけで、叫んだ。

140 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 01:53:11.38 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

 言葉足らずだ。

 まったく、幼い言葉だ。

 でも、なによりもすばらしい言葉だ。

「あずさああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

「今度会うときは! 最高にカッコいい私を見せるから! その時まで待っててね!!」

 腕がちぎれるくらいに、振り回す。

 涙を、止めることなんてない。

 泣いて、

 泣いて、

 泣き倒した。

 そして、誓った。

 私は、一番カッコいい姿を結に見せてやるんだ、と。

141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:53:47.71 ID:f/IirEHMO
↓スタン・ハンセンのAA

142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:02:27.45 ID:gMyPNpR20
      ,..、    /´,!
.      l l ,....、 ! l
_      l/`く ,. V  /
     i' ヽ ヽ、   !
     ト' 〉   ``ソ
    l i'    /
.     !       l
      !'´    .!       ユィーーーーーーーーー!!!!
      !     i
.      !     .i
.      l        i                ___
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      !         i、               j'        ヾヽ、
      !         ヽ          l            ヾヽ
     l.          ヽ          ノ_,... --‐ '''"´ ̄ ̄ ̄`` ー、._
.     !        ヽ  (`ー‐''"´ ̄_,. ---、......____           ヽ
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       l            ヽ      `ー! (  _ i、       r i !      ,!
       !           ヽ     l j jiiiiiiiiiii、       イi     ,..イ
         ヽ             ヽ、   .l jil''""ヾlli. i    `´ ll!..-‐' ´
            ヽ             ` ー、.ヽ" !、__,ノ ゛ !        !
             ヽ            ,..l ,ー‐'  ./       .ト-、
              ヽ          r'´ l´ i  ノ   /     ソ !、
              ヽ        ,r'   _,..ゝ、  _,.-'´     //  `ヽ、_
             ヽ     ,r' _,ィ'´   l -二      ,r',r'       ,r'´ヽ、
               ヽ、 ,r',..-'´/´    、_,.. -    ,r',r'       r'´``ー、 ヽ、

143 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 02:02:39.11 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

 それからの話をしよう。

 私、中野梓は桜高の入学試験を順調にパスし、入学を決めた。
 結がいなくても、私はこの学校に入ろうと思った。
 次に会うときは、最高にカッコいい私で。と誓ったのだから。

「――あ」

 その桜高で、出会ってしまった。
 最高の演奏に。

 ――最高にかっこいい演奏者に。

 だから、この人のそばで演奏をすれば、きっと私は結に見せられるカッコいい自分になれる。
 そう思った。

「パートはギターを少し――」

「おお! 唯と一緒だな!」

 ――ああ。
 なんだ。そういうことだったのか。
 結に見せるために、唯に教わる。
 これも、一つの形なのかもしれないな。

144 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 02:09:16.02 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

 ――夕日は沈み、外は闇色に変っていた。
 意味のない長話だ。
 それを、4人の先輩は真剣に聞いてくれていた。

「結ちゃんか、会ってみたいな~。あずにゃんみたいに可愛いんだろうねえ」

「唯先輩に似てて、可愛いですよ」

 見た目も、よく似ている。
 違うところといったら、音楽の才能がまるでないことくらいだ。
 結は、いつだって音楽の時間は私に頼りっきりだったから。

「梓、私たちもっと練習するよ! 澪! やるぞ!!」

「やっとやる気になってくれたか! よし!」

「やるぞー!」

「ところで、梓ちゃん」

「え? なんですか。ムギ先輩」

「――うーん。なんでもないっ」

 紬は、にこりと笑ってキーボードの位置につく。
 どうやら、これから練習を始めるみたいだ。
 現在の時刻午後6時半。あと30分もすれば先生がやってくるだろう。
 でも、それまでの間は昔のことを思い出しながら演奏してみるのもいいのかもしれない。

145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:14:56.86 ID:1mIJ+qSJO
よかったあずにゃんは処女なんだね

146 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 02:15:24.85 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

Epilogue

 目映い照明。

 それに照らされるのは5人の女性たちだ。

 黒髪の、一番小柄な女性が織り成す音で、その場全ての人間は熱狂する。

 ステージの下で見つめるのは、一人の女性。

 その目にはうっすらと涙を浮かべている。

「梓……。今の貴女は最高にカッコいいよ」

 それを見て、黒髪の女性はにこりと笑う。

 夢を叶えるのに、名前なんていらない。

 借り物の夢ではなくて、黒髪の女性は自分の夢を形にしたのだ。

 彼女の楽屋に置いてあるバックには、10年前、ある男から貰ったクレープ無料券が二枚。

 今でも、綺麗に入っている。

                                                    
                                                    FIN

147 :笑み社 ◆myeDGGRPNQ :2010/02/20(土) 02:16:09.17 ID:kaY0L5a10 ?2BP(2050)

終わった。





終わった。
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